マキ・ローウェル & ペンチ・イライザ

もういい加減に見慣れたシルエット、我が物顔でベルウィック星の空を飛ぶ鬱陶しい『キノコ野郎』…… 異星人の輸送艇Xu−23aの船団が手を伸ばせば届くような高度で、アゾレック基地の廃墟一隅で息をひそめる彼女達の頭上を奇妙な駆動音を響かせながら悠々と通過していく。

ーーー あたい、チビっちゃいそう…… 早く…… さっさと行っちゃってよ!

相手に発見されないよう完全な受動照準モードにセットしたハンドミサイルは旗艦と思しき艦をロックオン済みだが、こんなものは重装甲の空中輸送艇相手に何の役にも立ちはしないのはわかっている。
だが、少女は肩に担いだ軽金属と強化カーボンで作られた発射筒のグリップを汗ばんだ掌で更に強く握りしめる。
こみ上げ続ける怯えを押さえ込む様に。

ーーー 主よ、どうか私たちをお護り下さいっ! 早くあの敵を行かせてしまってくださいっ……

全身が強張り、カチカチと自分の歯が鳴っているのがわかる。もし見つかれば、きっと腕の中に抱えた予備ミサイルなど装填する暇も無く、自分たちは綺麗さっぱりこの世から消滅するだろう。
無意識に胸の前で十字を切る間にも、もう一方の少女の視線もクギ付けされた様に通過する敵船団から動かせない。

(お願い…… 通り過ぎてっ!)

二人の少女はそれだけを念じつつ気配を殺し、頭上を見詰め続ける……
AD.2058、後に第二次クレアド戦役とも呼ばれる異星文明間の戦争はその烽火を上げたばかりだった。


なんつー様なシーンも有ったんじゃないかな〜〜などと勝手に脳内でデッチ上げつつ描いてみたバイファム絵。
本放送終了から既に四半世紀を経過した作品ですが、SADの中では迷わずベスト3に入るサンライズ作品の中の名作『銀河漂流バイファム』からマキ(右)とペンチ(左)本編では余り見かけなかった少々珍しい組み合わせかもしませんが、4歳コンビのマルロとルチーナを除けば11人で戦闘や何やらこなしてたワケですから、まあ絶対にこのペアでの見張りとか有ったんでないかと。
本来の主人公メカであるバイファムが殆ど登場せず、サブメカであるはずの機体ディルファムが活躍していた事から『地上遭難ディルファム』と一部で揶揄されていた、第一クールの頃のイメージですね。

最近DVD版で全話通して視聴してみましたが、やはりイイ!!!(^_^)
どこにでも居そうな少年少女にある日降り掛かった『戦争』という状況の中で繰り広げられたドラマは、今観ても全く古さを感じさせないです。
原案にトミノの御大が名を連ねている事からもわかる様に、宇宙版十五少年漂流記という企画当初のガンダムのコンセプトから言えば、ある意味ではこちらが本来のガンダムかもしれない。
実際(シリーズ途中で惜しくも故人となられましたが)故・神田武幸監督を筆頭に基幹スタッフが後年『第08MS小隊』を制作してますし。
内容以外でもALL英語歌詞のOP、次回予告を廃してOPの前にハイライトシーンを挿入するアバンタイトルスタイルのTVアニメで初の採用、今でこそ珍しくもないですが劇場公開前提の完全新作OVAも、この作品で制作された『消えた12人』が世界初だったり(当時の放送事情を起因として多分に結果的にでも)新作カットを多用したOP画像に変更と、現在のスタンダードに通じる多くの試みが為された作品だったと思います。